Lisa考察改 -LISA the Firstで、何故滝の先に彼を見たか
お久しぶりです、ハザマシジマです。
今回は、LISA the Firstのとあるシーンについて、彼女の精神構造を推定しながら説明を加える試みを行います。
数年前の自身の考察よりは、Lisaについて明らかに進んだ理解になっていると思うので、以前の考察をご覧になった方も是非ご覧ください。
本記事には、LISAシリーズのネタバレ、機能不全家庭に関わる記述を含みます。
該当シーンについて
まずは本編にて、本記事にて取り上げる「滝の先に彼を見たシーン」がどこかを軽く述べます。
時はゲーム最序盤、LisaがMartyの目を掻い潜って家を出た後のこと。
彼女は白い花が咲く草原を進み、複数の滝に繋がった滝つぼの上にかかる長い橋の上を進みます。
橋を1本超えた後、遠景におびただしい量のMartyの顔が溢れ、自宅1階のテレビと同じ音が聞こえてきます。
2本目の橋を進むとテレビの音が大きくなり、足元の橋を除いて、辺り一帯おびただしい量のMartyの顔が溢れます。
2本目の橋を越えると更にテレビの音が大きくなり、足元にすらMartyの顔が侵食してきます。
私自身、このシーンを初めて見てから5年以上、このシーンで何故Martyが現れ始めるのか分かりませんでした。
しかし最近、MartyがLisaに植え付けた恐怖と、閉じ込められた自室と自宅の中しか知ることができなかった彼女の生き方が、この場面を引き起こす要因となったのではないかと閃きました。
次節より、根拠を示します。
Lisaの精神推測
まず彼女について述べる際には、彼女の父親Martyの記述は必須です。
ひょっとすると、彼女の人格のほぼ全てがMarty由来である、とすら言えるかもしれません。
Martyについて
Martyは、Firstではこのような特徴が見られます。
・軟禁+持ち物没収で、Lisaの身体的精神的自由を非常に縛っている
Lisaが外へ出ようとするとMartyは「部屋に戻れ」と告げます。そして彼女はそれに従い自室へ戻ります。Lisaの持ち物は彼に全て奪われていることが、自室のテキストから分かります。
・性虐待があるとほぼ言ってよい
現実内と思しき自宅の場面で、Martyは全裸でLisaの前に現れます。
更には、First内精神世界に出てくる男性器めいたRickの存在と、Joyfulエピローグ*1から性虐待の存在が示されます。
更にPainfulでは…
・MartyはLisaに「下手なことをすれば暴力に遭う」と恐怖を植え付けることも可能
Martyは殴られて帰ってきた幼いBradに対し、手当てしないどころか瓶を投げつけます。たとえLisaは直接殴られたことが無かったとしても、Bradに対する暴力を彼女が知ったなら、脅しとしては十分でしょう。
・家を整えるだけの経済的(あるいは精神的)な余裕が無い
Painfulでは(Firstでも多少は伺えますが)、家の中も外もボロボロです。
外の乱れは、家を修繕して安全を強固にするだけの経済的余裕がないことが伺えます。
中の乱れは、家を片付けるどころではないくらい精神的な余裕がない可能性が伺えます。
・酒乱、親としては明らかに不安定で不適切
多量の飲酒は家計にも負担が大きいでしょう。
精神的な面でも、飲酒で豹変する親は不安定で、その中で過ごせば「何が正しいのか」「平穏な生活とは何たるか」が家庭内で示されず、子供も不安定で無秩序になり得ます。酔い方によっては、酔った親の姿自体も、子供の恐怖対象になります。
また、飲酒をしなくてはならない親は精神的にも脆いので、親の様子を神経を張ってご機嫌取りに奔走する必要がある(でなければ恐ろしいことが起こり得る)ので、子供には脅威になります。
更に言えば、Martyは酒瓶を暴力に使うせいで、暴力の脅威が増します。
物理・経済・精神のどの観点からしても、彼らにとっては困難を増すことでしょう。
といった特徴が見られます。
MartyおよびArmstrong家は、家庭にまつわる用語でいえば、間違いなく機能不全家庭、いわゆる毒親ですね。
そしてそんなMartyの下では、Lisaがどのように生きていかねばならないかというと…
MartyがLisaに与えた影響
Lisaが家の中から外に出ようとすると、Martyに「部屋に戻れ」と命じられます。
彼女がそれを無視し行こうとすれば、彼女を強制的に戻すか、罰を下すか、どちらかを実行することは、物理的な力関係からしてMartyには容易いです。彼に「部屋に戻れ」と言われただけで戻るのは、そうした点からでしょう。
こうして物理的に外の様子を臨むことが、非常に困難になります。
それでも出ようとするなら、彼の目を掻い潜ることと、彼からの罰を受けることを覚悟する必要があります。
そうして彼女は自室に軟禁されます。
更には自室においても、彼女の過ごし方は不自由です。
彼女は持ち物をMartyに全て奪われています。本の1冊もありません。筆記用具すら自室に無いかもしれません。
本などの情報媒体が無ければ、今いる家庭以外の世界があることを想像できるだけの知識すら入りません。更に筆記用具も無ければ、なけなしの創造性や自分の意思を記録することすらできず、精神の自由もほぼ無い状態に置かれます。
更にMarty自身、不安定で頼りなく、暴力的な親です。そのような環境では、彼女は彼がどう動くか、何を求めるか、常に見張る必要があります。
彼の機嫌を害すれば、彼の意思に背けば、Bradが暴力を受けたように、恐ろしいことが起こるでしょう。実際Martyは、Lisaに性虐待を行いました。
ではどうすれば彼を怒らせずにいられるのか?これすら一貫しておらず、彼の状態によって正解が変わったかもしれません。酔っているかそうでないか。彼の機嫌を害したことが他に起こっていないか…
Lisaは生きる手段として常にMartyの様子を察知し、彼について考え、彼の情報の一つ一つを覚え、即座に反応しなくてはなりません。外界に思いを馳せるだけの余裕も知識もないままに。
彼の声色、足音、匂い、挙動、家庭内で起こった出来事に、四六時中神経を使います。彼の機嫌を害さぬように。生き延びられるように。
家の中のどんな些細な音にも、すぐさま注意を向ける聴覚。その様子から、瞬時に「彼はどんな様子か」「これから何が起こりそうか」を推測し、機嫌を害さぬように対策を講じます。どうあがいても被害を受けそうなら、身を固め被害を被る覚悟も決めざるを得ないでしょう。
そのような生活を続けると、Martyについて感じ取り、考え、記憶する能力しか身に付かず、彼の機嫌を取ることばかりに特化した結果…
Lisaの中には、Martyのことばかり詰め込まれた脳が出来上がります。
滝の先にMartyの姿を見た原因
では本記事の題名にもある「何故LisaはMartyの姿を滝の先に見つけたか」について、結論を述べます。
前述のとおり、Lisaの脳はMartyのことばかり考えざるを得ない形に完成しました。
その脳を持った彼女が滝の音を聴くと…
水流のホワイトノイズから
テレビのホワイトノイズを連想し
更に自宅1階の常に点いていたテレビを連想し
それを見ているMartyを連想し
結果彼の幻覚を見た
滝の音を聞いたLisaは、長年培わざるを得なかったMartyの記憶と彼への恐れを元手に、このような連想をほぼ一瞬で行い、彼の幻覚を見るに至ったのだと推測します。
非常に長い記事になりましたが、今回は以上です!
読んでくださり、ありがとうございました。
*1:LisaがBuzzoに「私の身を切って」と頼む場面にて、「そうすればあの男は私を求めてこなくなる(原文では"This way, he won’t want me anymore.")」と、Lisaの身体を求める人間はただ一人であることが示されている。Firstの描写と併せれば、その一人はMartyと推測される